拝師(はいし)制度とは
私たちの所属している中華武術國際誠明總会には「拝師」という制度があります。先生と生徒の間に擬似的な親子関係を作る組織です。一般の人が武術を習いはじめることを「入門」といいます。入門を許されると「学生」という身分になります。学生を続けているうちに先生が認めた会員を許可するのが「拝師」で,正式な「弟子」になることです。
先生から何かを学んだ場合,先生と学生という関係になります。この段階ではまだ弟子だと名乗ることは出来ませんし,普通の習い事と同じですから,もしこの学生が違うものを学びたくなったりした場合は,辞めることも可能です。
ところが,拝師とは,冒頭のようにそれよりもさらに踏み込んだ関係であり,いわば自分が「師を父とする」家族の一員になることを意味しています。ですから,まずは何よりも生徒が「この先生に一生ついていきたい」,先生もその生徒の人格を認め,生涯をかけて育てる決心が出来た時にのみ,「拝師」が行われるのです。しかし先生としても,責任を持たなければならない我が子が増える訳ですから安易に引き受ける訳にはいきませんし,弟子は弟子で親(老師)を生涯敬う責任や,老師から学んだことを後世に伝える責任が生じてきますので「拝師」は,お互いにとって人生の重大決断になります。拝師とは,技術の伝承だけに関わることではなく,もっと広く深く,人と人が生涯の契りを交わす行為に他ならないのです。
さて,拝師には儀式があります。中華武術國際誠明總会府中館の場合は,台湾本部で写真(ここをクリック・ページ下半分)や感想文のように師太爺(スータイイエ)王樹金先生の遺影の前で,老師(ラオスー)小澤正司先生に対して拝師する学生が整列します。師爺(スーイエ)王福来先生,師姑婆(スークーポー)黄淑春先生介添えの下,多くの先輩の方々に見守られて厳粛に行われます。その際,誓言文[終南門派の弟子になるための心構えの文言。]を大きな声で読み上げ誓います。
内容は「門規そして倫理・道徳を守り,決して自分が師であると称したりしないことを誓います。また,技を他伝せず自ら深く研鑽し,かつ終南門派の発揚を任務として尽力することを誓います。もし虚心を抱きこのような誓いに違背したときは破門されること(厳しい処分を受けること)を覚悟いたします。」というような文言です。どんなに大変でも一生続けるという覚悟がない人は,絶対に軽い気持ちで拝師することはできません。
拝師をすると,呼び方も先生→老師(ラオスー),学生→弟子と変わります。老師小澤先生の兄弟子を師伯(スーポー),弟弟子を師叔(スースー)と言い,本人にとって,伯父・叔父に相当する人であり,実際の年齢とは違います。また,自分より先に拝師を済ませたものは師兄(スーション),後であれば師弟(スーティ)となります。そして,対象が女性なら同様に師姉(スーティエ),師妹(スーメェ)となります。これも年齢に関係ないので,自分より年下の師兄も存在します。
拝師をするといろいろな義務も生じますが,弟子しか教えてもらえない技を教えてもらえるようになります。要するに後継者候補の一人になるわけです。